限界集落で起こる謎の数々
【Iの悲劇:米澤穂信】

短編集

Iターンをテーマにした短編集、「Iの悲劇」を今日は紹介してくぞ。

Iターンとは珍しいテーマですね。
そういえば、一時期Iターンが話題にもなっていましたが……。

人口が0人になった集落で、孤軍奮闘する主人公が事件・事故に巻き込まれながら、
解決していく物語なんだぞ。

限界集落で孤軍奮闘って、ストレスが半端ないですよね……。
果たして、主人公は報われるんでしょうか。

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概要

  無人になって6年が過ぎた山間の集落・蓑石を再生させるプロジェクトが市長の肝いりで始動した。市役所の「甦り課」で移住者たちの支援を担当することになった万願寺だが、課長の西野も新人の観山もやる気なし。しかも、集まった住民たちは、次々とトラブルに見舞われ、一人また一人と蓑石を去って行き…。

「BOOK」データベースより

大きな3つの魅力

Iターンというテーマに絞った限界集落の現状

 ・限界集落にスポットを当てており、お仕事小説とも読める。

質の高い短編小説

 ・どの短編も上質で、バラエティに富んだ物語。

綺麗な伏線

 ・読み終えてから、「そういうことだったのか」と膝を打てる。

どんな事件なのか?

  • 近隣の騒音トラブルをどう解決する?
    • 騒音トラブルの解決を命じられた主人公はどうする?
    • 何故、騒音が起きるのか?
    • 思いも寄らぬ、騒音トラブルの結末は?
  • 行方不明になった子供の行方は?
    • 帰ってこない子供の捜索を命じられた主人公。
    • 近所の懐いている老人宅に行ったのではないか?
    • しかし、老人は留守で家も戸締りされている……。
  • 自然主義者の行き着く先は?
    • バーベキューパーティで起こった悲劇とは?
    • 如何にして事故を起こしたか?
    • そして、移住者の末路とは?

オススメ度

謎の魅力:★★★☆☆(短編集なのか、ちょっとパンチが弱いかもしれないが、伏線は見事)

登場人物:★★★★☆(主人公を取り巻く環境で現れる人たちがとても個性豊か

読み易さ:★★★★★(流石は米澤穂信で圧倒的な筆力でグイグイ読ませる)

総合オススメ度:B
良質な粒が揃った短編集。Iターンの現状や理想と現実のギャップを見せつけてくれる。

感想

 Iターンをテーマにした推理小説は珍しく、興味深く読ませて貰いました。

 今までの自分のIターンの認識は「田舎に移住して大丈夫なのか?」という酷く楽観的なものであり、深く考えたことがありませんでした。

 この小説は市の職員が、人口0人になった集落を甦らせるため孤軍奮闘するもので、主人公の努力を通じてIターンの現実が我々読者に伝わってきます。

 定住を目標とする「甦り課」ですが、現実は厳しい。 個性豊かな、一癖も二癖もある移住者の間に入って、様々な事故や事件に対応しなくてはいけない。もはや市の職員というよりも、便利屋みたいで胃が痛くなりそうな事案ばかり。これも定住をして貰うため、と主人公は身を粉にして働きますが、主人公は報われないことも多い。

 移住者は「理想」や「豊かさ」を求めて、Iターンに参加しますが、やはり限界集落という「現実」とのギャップは深くて、埋め難い。

 一番印象に残ったのは、主人公とその弟との電話のシーンでした。

 都会に住む弟は経済に貢献せず、税金を食い潰すばかりの過疎地域のことを「深い沼」と表現しましたが、弟の生活ぶりは残業・休日出勤と幸せ・精神的豊かさとは掛け離れた生活です。

 果たして、豊かさとは何か。地方と都会と比べて、豊かさはあるのか?

 Iターンを希望している人は読んでおいて損のない一冊だと思います。 

小説との面白さはもちろんのこと、Iターンの現状を突きつけられて、
考えさせらる物語に昇華しているな。

僕は最終章が衝撃的でしたよ……。
まさか、このIターンの計画の裏にこんな事実があったなんて。

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